水どうD陣自費出版本第3弾!
水曜どうでしょう最新作2023について語り尽くし!
好評発売中!
-----------------✂︎------------------
シャープさんとヤンデル先生の相談室
〜ただまぁ、打つ手はないです〜
第16回
「公式」の先駆・シャープさんと、つぶやく病理医・ヤンデル先生が!
悩みを聞くだけ聞いて解決しない相談室を架空のアパート「どうで荘」で開設。
様々な「相談」に、各自の持ち場から答えていただきます。
毎月1度、どちらかお一人の回答を無料公開。
もうお一人の回答や過去のアーカイブは「どうで荘」入居者向けに掲示します。
今月はヤンデル先生の回答を無料掲載いたします!
シャープさんの回答や、これまでのアーカイブは「どうで荘」の入居者限定ページにて公開しております!
お悩みはこちらからお寄せください
---------------------------------------------------------------
☆今回のお悩み☆
小さな医療機関で働いてます。 口コミのスルーの仕方で悩んでます。 先生の心が少し折れて復活しましたが、モチベーションをかなり折られた姿が気の毒でこちらに参りました。
簡単に申しますと腰痛をヘルニアと診断できなかったので、能力なしの医者(+酷い捨て台詞)です、とのことです。
ざっくり反論するとしたら、腰痛とは原因がヘルニアであれ狭窄であれまずは痛みをとるためにお薬やリハビリ安静で改善することも多く、収まれば病名はつきません。それでも改善しなければ、手術も視野に入れてMRI検査に紹介して精査となります。(小さい医療機関はココまで)ヘルニアはMRIで確定診断できますが、動ける程度の腰痛に対し、既往でもない限り初診からMRIは健康保険制度が許してくれませんので、MRIを持ってるような大きな医療機関は小さい医療機関からの精査依頼や明らかに重症で運び込まれた場合などに初診から検査をしてくれるのです。
つまり、この方はつぎの予約に来て数回経過観察していれば翌月にはウチからの紹介でMRIにたどり着けたかもしれないのに、ドクターショッピングをしたのか半年もかけてやっとMRIにたどり着き、なかなか口汚い口コミを書き込んでおられるのです。
なんでも一発で診断できるという期待に応えられてないといえばそれまでですが、不満をココにぶちまけてスッキリされている以外、本人も半年も痛い思いをし、医師をけなし、それを見てる人を不安、不快にさせて、全員損をしてます。このプラットフォームで言うのもなんですが、口汚い部分だけでも削除してもらいたいとグーグルにコンタクトを取ると、ビジネスオーナー登録をしろといわれ、登録をしたらページをより快適に運営するために広告料を払いませんかとお誘いが来ただけで、口コミの翌日には「マイナスの口コミ削除依頼受付けます」という謎の営業のfaxがガンガン入るし、クチコミ→削除申請→広告商法に狙われているのかなと別の危機を感じたり、勝手に土俵に上げといてみんな丸損させるプラットフォームもどうなんだろうと、もはや何に対して何をなやんだら良いかも分からなくなって、なんだかもんもんとしています。
シャープさんからこちらのコーナーをしり、いつも大事な勉強をさせていただいています。けなすことなくうまく言葉にまとめて右から左に流す心の持ちように導いて下さい。
PN: ぐーるぐる
---------------------------------------------------------------
こんにちは、誠にお疲れ様です。ご相談をまとめますと、「グーグルのサービスでひどい目に遭ってグルグル悩んでしまったぐーるぐるさん」、ということだと思いますので、さらにまとめますと、「グーグルぐーるぐる」となりますが、こういうのはまとめないほうがいいですね。まとめると細かな現場のニュアンスがふっ飛びますからね。ニュっ飛びますからね。まとめないほうがいいですね。
で、えー、まとめないほうがいいと思いつつ、お悩みの根っこにある構造を探りますと、ここには医療現場で高頻度に観察される、
という摩擦が存在しているのでございます。
えっそうなの? 問題はグーグルの口コミシステムのほうなんじゃないの? と思われるかもしれませんが……。
今回のケースでは、たとえグーグルが対処したところで、根本的な解決にはならない気がします。なぜならグーグルのコメントが削除されたとしても、その人はおそらく別の病院口コミサイトへの投稿をするでしょうし、Twitterに書き込んだり新聞に投書したりするでしょうし、最終的にはそれこそFAXを使ってでも嫌がらせしてくるのではないかと思われるからです。
感情発露の場を抑え込んだところで、実際に不満を育ててしまった人の感情まで抑え込むことはできません。
グーグルの口コミ、ヤフーのコメント、アマゾンのレビューあたりに対しては、ぶっちゃけ私も忸怩たる思いを抱えており、実際に泣かされた人も多数存じ上げてますので、もうちょっとなんとかならんのかと思うところではありますが、だからといってグーグルに突撃して口コミを個別に削除したところで、いたちごっこと申しますか、問題の根本がちっとも解決されないと言いますか。
なぜこの手の問題が解決できないかというと、これはもう、相当悲しい理由なのですけれども、現代の人の少なくとも一部は、「理不尽な悩み」を自分で抱えて終わりにせずに、他人に投げつけることで多少なりともストレスを発散させようとする方向へと「進化」してしまっているからです。ここでいう進化というのは、良くなったという意味ではなく、「選択圧によってある種の傾向が強まった」くらいの意味で使っておりまして、つまりはひでぇ話です。
もちろん、グーグルのようなプラットフォーム側がこのような状況を漫然と眺めていてよい、とは思いません。少なくともぐーるぐるさんの遭遇されたようなケースはマジでしょっちゅう見かけますし、あちこちで問題視されてもいますので、そのうち何らかの形で改善がもたらされるんじゃないかなあとも思っております。その意味では、まだ、打つ手はあります。でもその手を打つのは我々ではない(グーグルがやることです)ので、これについては今回の私のお返事では保留とさせてください。
我々が個別に打てる手としましては、ぐーるぐるさんも書かれてましたが、スルースキルを鍛えてやり過ごす……くらいですよね。きっと。
あなたのペンネームがグーグルでぐーるぐる、から、スルースキルですーるする、へと変わることを心から願っております。
さて、ここからが本論です。えっ、今ので回答は終わったんじゃないの? と思われたかもしれませんが、私はどちらかというとスルースキル云々よりも、現代の社会が抱えている、「最適解は素人にとっては到達し難い」という構造的問題に興味があります。さっき、簡単な図でご説明したアレを、あらためて再掲しましょう。
これをもう少し詳しく説明します。
まず、元・患者さんは、腰痛でけっこうな期間苦しんでしまったわけですが、医療機関からすると、「クリニックの診療にすぐにケチを付けず、ドクターショッピングしないでもう少し通い続けていればよかった」という、初見ではまず気づきようがない最適解があって、それに導かれなかったという悲しみが存在するわけです。
この患者さんが短気さえ起こしていなければ(たぶんそういうことですよね)、次、もしくはその次の外来で、しかるべき高次医療機関へ紹介できて、無事診断にたどり着けた可能性は高いと思います。
でも、医療の素人である患者さんには、そんなのわかりようがないと思うんですよね。
この「最適解」は、「たくさんの患者を見るほうの立場」でないと普通は思い浮かばないと思うんですよ。
そういう、「素人にはわかんねぇよ」っていう状況自体が、元・患者さんにとって災難の基となっていたと思うのです。
ところが元・患者さんはその後、嫌な目に遭ったからということで貴クリニックに八つ当たりしているわけです。陰湿ですし大人げないと思います。普通に悪人です。弁護の余地はないです。
でも、なぜそのような悪に身を委ねたのかと考えると、大本を辿れば、「専門家じゃないとわからないような最適解、ベストルート、ライフハックを知らなかったから」なんですよ。
ね。
「最適解は素人には到達し難い」問題。
根深いと思いませんか。
これは別に医療業界に限った話じゃないと思います。以下、想像の範囲で書いてみます。
(1)
客「このキャンプ場は虫が多すぎるのでみんな行かない方がいい。夜中に蚊が煩くて眠れなかったので中央ロッジで蚊取り線香を買おうと思ったが夜9時を過ぎたら閉まっていた。キャンプ場なのだから売店は夜通し開いておかないと意味がない。もう行きません このキャンプ場はクソ」
キャンプ場スタッフのひとりごと: 事前に連絡してくれればキャンプスペースに設置できる蚊取り線香セットを無償でレンタルできたのに……。日中に中央ロッジに来てくれればそういったサービスの概要はポスターで掲示してあったし、なんなら、サイト受付時にカウンターでも説明を受けているはずなのに……。このお客さんは、それを聞き逃していたんだよなー。
(2)
客「このレストランはフロアスタッフが口うるさいのでみんな行かないほうがいい。彼女の誕生日を祝うために歌を歌ったらほかのお客さまのご迷惑になりますと言われたが、歌ってはだめとはどこにも書いていなかったし公衆の面前で他の客に聞こえるようにそれを言われて恥をかかされた。マナー違反だろう。もう行きません このレストランはクソ」
ソムリエのひとりごと: もし、事前にお店に相談してくれていれば、他のお客さんにもあらかじめそっと周知して、途中で歌を歌うくらいの調整ならできたのに……。誕生日特製コースだって事前予約可能だったのに……。オンライン予約にはそういうときのために「備考欄」があるのに、このお客さん、気づかなかったのかなー。
(3)
客「このレコードショップは現代に即していないのでみんな行かないほうがいい。試聴機がないのに曲なんて選べない。そもそもサブスク時代にハードコピーそれぞれに金を取るなんて時代錯誤。はやく潰れろ」
元バンドマン・今レコード店員のひとりごと: 今の時代、レコードの価値って、曲という知財・データだけじゃなくて、ジャケットとかライナーノーツとかの「物」に宿ってる部分も多いと思うんだけど、そういうことをぜんぜん考えてないのかなあ……。それに、せっかく店に来たのなら、店主に好きな音楽の傾向を伝えてくれれば、似たジャンルのおすすめも紹介できたのに……。「試聴」みたいなオンライン向きのサービスで実店舗の良さを語られてもなあー。
まあざっと書いたのでちょっと雑ではありますが、こういったトラブルやクレームの類いは、どこの世界にもありそうですし、貴クリニックの状況と多少似ているのではないかと思います。
店員側は「もっとうまく使ってくれればいいのに」と感じていますし、コアユーザーではない客は単純に損をしているんです。
ぐーるぐるさんのおっしゃるように、
「不満をぶちまけてスッキリする以外、本人もいやな思いをし、店/医者をけなし、それを見てる人を不安、不快にさせて、全員損をする」。
悲しい連鎖ですよね。なんとかなりませんかね。
うーん、そうですねえ。
なんか、厳しい気がするなあ。これぞというドンピシャの解決策はないのかも。
でも今、ふと思ったんですけど、少なくとも今回のぐーるぐるさんの投稿をご覧になった方は、「なるほど腰痛ってそんなに一発で診断できるものではないんだな。」と理解していただけるかもしれませんね。
たとえば、これを読んでいる人の中にも、将来、けっこう激しい腰痛に苦しむ人がいるかもしれません。
その人が、お近くのクリニックに行って、「まずは症状をとる治療」からはじめて、でもなかなか腰痛が良くならなかったとして、そこでブチ切れて、「なんだこのヤブ医者! もういい! ほかの病院で見てもらう」とドクターショッピングを開始して、半年くらいさまよって……とならずに、「そういえばどうで荘で読んだけど、このクリニックときちんと相談すれば次の一手を打ってくれるかもしれないんだな。」とかなったら、それはなんか、情報を共有できてよかったな、ってことになりますね。
さらには、この記事が掲載されたあとに、世の中で多少なりとも、「理不尽なクレームってあるよねー」みたいな話題が盛り上がったり、「病院に対する口コミってたまに偏ってるけどどうすればいいのかな」みたいな対話がなされたりしたら、それはそれで、なんというか、良かったなあとも思います。
ぐーるぐるさんはお悩みの最後のところに、「もはや何に対して何をなやんだら良いかも分からなくなって、なんだかもんもんとしています」と書いてくださいました。
そして、もんもんついでに、解決しないことに定評のある当コーナーに投書してくださったわけです。
答えのなさそうなどうしようもない悩みを投げ捨てる場として、どうで荘は立派に機能していますね。
フフッちょっとうけますね。
うけてはだめですね。
我々はここで、投げやりにお悩みを左から右へただ放流して、最後を「打つ手はないです」で締めるというしょーもない文章を書き続けているわけですが、そのような、「お悩みを一発で回答しない」というスタンス、ある問題についてダラダラ時間をかけてみんなで様子を見ていくというやり方が、「瞬間的に診断・治療!」には絶対に結びつかないのですけれども、何らかの解決……というか妥協……というか軟着陸……につながる可能性は、ゼロではない気がしますね。
今すぐに「最適解はこれだ!」と申し上げることまではできないんですけれどもね。
ぐーるぐるさんが今のお悩みをこうして不特定多数の方の目に触れさせたことで、なんか、どこかの誰かにとって悪くはない変化は起こるかもしれませんね。
すみませんね、こんなことしか言えないですね。
でもなんというか、ぐーるぐるさんのこの投稿によるお悩みの吐露と世間へのわずかな問いかけが、なんだかんだで一番効果があったね、将来の悲しいすれ違いをひとつ減らしたね、って感じの夢を見ても、我々、バチは当たらないんじゃないかって思うわけですね。
というわけで、まとめますと、「お悩みを送ってくださってありがとう」となるわけですが、まとめるとここまでのニュアンスがフッ飛んでしまうのでまとめないほうがいいですね。というわけで今回もやっぱりまあその打つ手はないです。
もう一人の回答者、シャープさんの回答はどうで荘入居者限定でお読みいただけます!
☆現在、皆様からのお悩みを大募集中!
【回答者プロフィール】
山本隆博
@SHARP_JPの運営者。どうでしょうをサラリーマン目線で見直すのが好きです。
病理医ヤンデル/市原真(45)
好きなどうでしょうはユーコンです。
-----------------✂︎------------------