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【お願い】藤村Dへの「お手紙」を募集しています

シャープさんとヤンデル先生の相談室
〜ただまぁ、打つ手はないです〜

第11

「公式」の先駆・シャープさんと、つぶやく病理医・ヤンデル先生が!

悩みを聞くだけ聞いて解決しない相談室を架空のアパート「どうで荘」で開設。
入居者からの「相談」に、各自の持ち場から答えていただきます。

☆現在、入居者の皆様からのお悩みを大募集中!

お悩みはこちらからお寄せください 

 

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☆今回のお悩み☆

シャープさん ヤンデル先生 はじめましてよろしくお願いいたします。

たいしたことのないことなのですが、レジの仕事をしている時に、(ものすごくレジが混んでいる)列に並ばずに横からアレコレ聞いてきたり、「〜してくれ」とか言ってくるお客様へは、なんと言えば、きちんと並んでらっしゃるお客様たちを、ほっこりさせることができるでしょうか?良いセリフがないかといつも考えております。

(PN. ここっけこさん)

 

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はいこんにちは、病理医ヤンデルです。

コンビニで、レジに向かって横からいきなり割り込んできて、「これは宅配便で、買い物とは別だから早くしてくれ」みたいな謎理論で周囲をあぜんとさせる人、まれにいますよね。その方になんと言えばよいか。

これは簡単です。

 

_人人 人人_

> バカ野郎 <

 ̄Y^Y^Y^Y

 

と一喝すればいいです。

このとき、シチュエーションにもよりますが、音響の工藤さんが、セリフの直前に絶妙のタイミングで「カチッ」という音を付けてくださることがありますので、あとでよくお礼を言っておいてください。「バカ野郎」単独よりも、「カチッ→バカ野郎」のリズムが、並んでいるお客さんの腹筋を効果的に刺激します。ありがたいですね。

狼藉者の雰囲気・たたずまいによっては、「バカ野郎」ではなく「ゲンゴロウ」を用いるのもよいと思います。高等テクニックであり、使い所は難しいですが、イラストとの相乗効果も期待できますので覚えておいて損はありません。このときたとえば「なんだこのゲンゴロウ」を投げつける寸前に、大泉……あなたがリンリンうるさくて脳みそが足りないニュアンスを醸し出しておくと、藤……狼藉者が「うるせえすずむし」と展開してくださいます。すると視聴者の笑いのツボがガバガバに広くなり、何をぶちこんでも爆笑となるフィーバータイムに突入しますので、「訴訟」「相手取る」「最高裁まで争う」「君んちに行くからな」「家族には手を出すな」などのキーワードをヒノカミ神楽のように連続でぶち込みましょう。そこまでやれれば、吉野石膏タイガーボードや北日本自動車共販のCMを挟んでエンディングに入ってもまだ笑いが止まらないくらいにお客さんたちを笑い続けさせることができるでしょう。

 

ただし。

先ほど私は思わず指を滑らせて「簡単ですよ」などと書いてしまいましたが、この一連のくだりを成功させるには、かなりの量の下準備が必要です。

 

そもそも、大泉洋という人が、四六時中D陣の言うことにバカ野郎クソ野郎と反発するタイプの人だと、ありがたみが薄れるというか、単に言葉使いが汚い人に見られるというか、とにかく、「バカ野郎」が笑いの効力を持ちません。

「バカ野郎」ひとつで笑いが取れるわけじゃないんです。

そこに至るまでの過程が大事です。いわゆる前フリ、もしくは背景条件と呼んでもよい。

彼は、カメラが回っているときにはそもそも「短絡的にD陣を罵るタイプじゃない」んです。あー、いや、ボヤキはしますよ。不満も表明します。しかし藤村Dやミスターに対してしょっちゅうコノ野郎ゲンゴ郎とケンカをふっかけてるわけじゃない。

だからこそ「際立つ」んです、ここぞと言うタイミングの「バカ野郎」が。

 

さらに、D陣がかつて指摘していたことの受け売りですが、大泉洋という方の凄さは、D陣が何かを言ったり、あるいは何かハプニングが起きたりしたときに、まずぐっと我慢して、飲み込んで、初手の段階では受け入れることを厭わない点にあります。

何かおかしなことが起こり始めたぞ、と察知してから、刹那と呼ぶにはやや長い、数秒ないし十数秒、「なりゆきを見守る」ムーブをするんですね。彼のクセなのか、あるいは笑いに対するセンスそのものか。

一般的なお笑い芸人の反射速度×手数のツッコミを、やればできるにも関わらず、やらずに保留して、「いったん待つ」。

鼻の穴と口の穴を縦に広げながら「ほん。ほおん。ほおおん(笑)」。藤村Dのむちゃくちゃなディレクションの行く末を、途中で遮らずに全部聞く。

「……そうかそうか……ンフッ……そうかそうか……」。

とにかく藤村Dがネタを全部出し切らせるまでじっと待つ。待ちながら構える。Dの手足が最もだらしなく伸びきったタイミングで一気に、斬る。

「よし、訴えるぞ」が宝刀としての輝きを発揮する瞬間です。たまりませんよね。

 

さらに言えば、私たち自身、もうすっかり毒されてしまって普段は気にも留めていないことなんですけれども、客……というか視聴者が、大泉・藤村(あるいは大泉・鈴井)の関係に慣れ親しんでいること。すなわち「視聴者の練度が高いこと」も、水曜どうでしょうの特徴である「一撃のインパクトが重く、フォロースルーも長い笑い」において、かなり重要な位置を占めているのではないかと考えます。

「あの大泉」が「あの藤村」に向かって。

「あの大泉」が「あの鈴井」に向かって。

知らない人から見れば単なる中年同士のいさかいです。しかしこれが、関係を知っている人にとってはたまらなくおもしろい。

幾年にも亘ってやりとりを観てきた「一流の客」だけがたどり着ける滋味。

もちろん、「水曜どうでしょう」には、一見さんを意図も簡単に惹き付けるような王道の笑いがたくさんちりばめられています。しかし、そのような「わかりやすい笑い」と矛盾しないまま、長年厳しい年貢を納めてきた藩士だけが口にできる笑いの甘露が込められている。これが強い。

 

たとえばですね。

レジ店員が大泉さんで、割り込む客が藤村Dで、並ぶお客さんが水曜どうでしょうフォロワーたる歴戦の藩士である状況において、

 

割り込む藤村D「おおい店員くんちょっといいかあ」

大泉「あ?」

藤村D「これ先にやってくれよ」

大泉「ああ? 並べよ」

客「クスクス……」

藤村D「先にやれっつってんだ」

大泉「な ら べっつってんだ」

藤村D「ああ? 見りゃわかんだろ てめぇ 別にこれ買い物じゃねぇから先にできるだろこのすずむし」

 

(カチッ)

大泉「ゲンゴロウは這いつくばって視線が床しか見えてねぇから見えねぇかもしれねぇがそこに並んでる客の後ろにつけっつってんだ」

客「(笑)」

という流れは完璧に成り立ちますしお客さんもほっこりすると思います。想像つくでしょう。

極論すれば、この際、セリフなんかどうでもいいんです。関係性があれば無限にやれる。100%ほっこりさせられる。

 

逆に、あなたがレジに入っていて、知らない人が割り込んできて、並んでいる客も全員知らない人の場合はどうでしょうか? お客さんはあなたと狼藉者の関係が読めないし、元よりほっこりするつもりでそこに並んでいるわけでもない。背景や前提を共有していない状況でセリフだけで「ほっこり」を求めるというのは非常に難しいです。ていうか、そもそも、今日の私の回答を、水曜どうでしょうを全く知らない人が読んだら何一つわからないと思いますよね、同じことです。関係性のない場所で、下準備もなしにセリフだけで、一見の客にほっこりしてもらうようなセリフなんてものは(ツイッターエピソードとしてはたまに見ますけど)基本全部幻想です。従いまして、まあその、打つ手はないです。

 

 

 

どうで荘にお住まいのみなさん、いかがお過ごしですか。私は切羽詰まってます。なぜならこのお悩み相談の締め切りが、とうにお過ごしなさっているからです。お恥ずかしいことに日々の大事小事にまみれて、すっかり原稿を書かねばならぬことを失念しておりました。なので私は、なにをもってしても、これを最優先で書かねばならぬ。まさに今、相談者さんのお悩みのごとく、ずらずらと列をなす私の用事をすっ飛ばし、原稿が「書いてくれ」と横入りしてきた状態です。並んでいた他の用事からすれば、舌打ちのひとつでもしたくなる状況でしょう。

 

ただし私の場合は、居並ぶ用事の優先順位を私が決定することができます。あくまで列の主導権は私にある。それに比べて相談者さんは、レジに並ぶお客さんの優先順位を決めるなど、とうていできません。お客さんは、前から何番目という順番以外はまったく公平。シンプルかつ偶然性を徹底したルールだからこそ、われわれも黙って従うわけです。

 

そのルールが無秩序な他人の出現によって邪魔されれば、並ぶ人が殺気立つのも無理はありません。とはいえ相談者さんにはお客さんの順番を前後させる、列の主導権はないのです。しかも「お客様は神様です」が必要以上に拡大解釈されがちな私たちの社会。列の殺気がレジの人へ向けられるのは、よく考えればそうとう過酷なことだと思います。

 

にもかかわらず、です。相談者さんは、並んでいるお客さんを「ほっこりさせたい」とおっしゃっている。立った殺気を鎮めるどころか、ほっと一息ついてもらいたいと望まれているところに、私はお客さんと直に対峙するプロフェッショナルを感じ、ほとほと頭が下がる思いがしました。そしてスマホ越しとはいえ、直にお客さんと対峙する私は、さらに一抹の共感を覚えるのです。

 

自慢ではないですけど、私も世間の殺気を一身に浴びるという経験をしてきました。現在も若干そうです。そしてその殺気は私の所属する会社がよろしくない状況をもたらしたことに起因するので、そもそも自慢にもならないのですが、とにかく殺気やイライラといった感情は宛先を求め、宛先が見つかったとたん、いっせいにそこへ集中する性質があることを、私は身をもって知っています。つまり世間の殺気やイライラは、組織や団体に満遍なく押し寄せるのではなく、誰かあるいはどこかを標的に向けられるということです。

 

だからといって、そういう場合にどうふるまえば適切なのか、私もよくわかりません。ただ私が行ったのは、殺気に宛先があるのなら、せめて受信したことは表明すべきだろう、ということでした。なので私はツイッター越しに、迫り来る殺気をすべて読んでいることを明言し、そして私がどう思ったかを可能な限り開示しました。解決なんてとうてい私ができることではありません。しかし「あなたのイライラは着実に届きましたよ」というメッセージは、少なくともイライラを増幅させないことにつながるのではと、いまの私は考えています。

 

最近はずいぶん少なくなりましたが、電車で電話する人に私たちはなぜイライラするかというと、電話の向こうの人がなにを言っているか聞こえないストレスが大きいという説を読んだことがあります。たとえ他人の会話や感情であっても、打ち返しが見えないと、われわれはイライラするのかもしれません。

 

ですから相談者さんには、これが「ほっこりさせたい」という解決に直結するかはわかりませんが、横入りされたお客さんの対処が済んだ後、それがどういう内容でどう思ったかを、口にしてみてはいかがでしょうか。列を停滞させた謝罪ではなく、「割り箸を6膳くれと言われて面食らってしまいました」とか、「シーチキンがどこに置いてあるかなんてとっさに思い出せないんですよね」とか、その瞬間に相談者さんが心の中で呟いてきた気持ちをそのまま吐露すると、列に並ぶ人は自分のイライラが受信されたと感じ、少しばかりでも殺気が緩むのではないかと思うのです。

 

とはいえスーパーのレジには、まだまだ殺気のきっかけが潜んでいることは、みなさんもご存知でしょう。私たちは列に並ぶ時、どの列がいちばん速そうか、さまざまな観測と予測を経て、並ぶ列を決めます。そしてその決断が正しかったか、レジにたどり着くまでずっと答え合わせをしながら並びます。つまり列の停滞は、停滞そのもののイライラに加えて、隣の列の方が速かったという損の殺気を引き起こすわけです。

 

そんな損得の殺気なんて、もはや列を一箇所にするフォーク並びしかないのでは、と私なんかは思うのですが、店舗の動線やスペースの制約上、なかなか難しいのでしょう。そんな想像をするにつけ、結局のところ私は相談者さんに「ご苦労さまです」と声をかけるしかできないのかもしれません。

 

なるべく寛容でいたいものです。私もあなたも。ただまぁ、打つ手はありません。

 

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【回答者プロフィール】

山本隆博
@SHARP_JPの運営者。どうでしょうをサラリーマン目線で見直すのが好きです。

病理医ヤンデル/市原真(44

好きなどうでしょうはユーコンです。

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