シャープさんとヤンデル先生の相談室
〜ただまぁ、打つ手はないです〜
第21回
「公式」の先駆・シャープさんと、つぶやく病理医・ヤンデル先生が!
悩みを聞くだけ聞いて解決しない相談室を架空のアパート「どうで荘」で開設。
様々な「相談」に、各自の持ち場から答えていただきます。
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☆今回のお悩み☆
水曜どうでしょうの楽しさをコミュニティに入ってより感じます。この楽しさを伝えたいのに伝わらない。そして、伝えられないから、諦めてしまう私がいます。これ、解決方法はあるのでしょうか。私もどのタイミングでなんでこの番組に行きつき、この楽しさに気づいたのか?が全く記憶にないのです。
ここで楽しく生きてるから良いのですが、妻にすらこの楽しさが伝わらず、悲しくなります。
どーしたら良いのでしょうか。。
(PN:きむら)
こんにちは。まるで私の投稿かと見まがうようなご相談、ありがとうございます。
楽しさを伝えたいのに伝わらない、良さを伝えることができなくてもどかしい、布教の仕方がわからないからとりあえず自分だけ信心して、まあ自分は救われてるからそこはいいんだけど、信者(ふりがな:ナカマ)を増やせないことに一抹のさみしさを覚えている……。
もう本当に、我が事です。さまざまな場面で、毎日実感するところであります。
なので打つ手はありません。早。
打つ手があったら私も打ってます。回答もう終わった。早。
それで、えー、この案件に関しては私自身、解決のしようがなく、長年あきらめてしまっている部分もあるのです。
ただしあきらめたと言いましても、決して、飛行機に乗っていたら目的地が視界不良だったから普通の着陸はあきらめたけど、どうしても目的地に着きたいからむりやり胴体着陸してみたら大変なことになりました、的ニュアンスではありません。「釧路空港の滑走路が霧だから、丘珠に引き返すわ! おまえらJRで行け! 特急スーパーおおぞらに乗っちまえば、4時間10分で着くから!」的なニュアンスでございます。
もともと想定していたルート自体はさっさとあきらめ、ヤケになってむりやりそのルートを強行するのではなしに、手間も時間もかかるけど別ルートで行く! という、旅慣れた感を出しながら、見栄に突っ張りカラ元気に胸を張る姿勢でございます。
といったわけで、ああこれは本当に解決しないパターンなんだな、とわかっていただきつつ(この企画はいつでもそうですが)、ひとつ申し上げたいことがあります。
逆に。
逆にですよ。「おすすめしたらめっちゃ伝わる」というパターンを思い浮かべてほしいのです。
たとえばiPhoneの最新機種みたいなことを思い浮かべてほしいのですね。
iPhoneの良さってすごく伝わります。商品自体がいいのはもちろんですがAppleという会社のブランドの力もすばらしく、それらの「提供元のすごさ」に加えて、ユーザーの推す力も半端ないなといつも思います。
iPhoneユーザーたちは、良さを伝えようと思うとすぐ伝わる環境にいますよ。ちょっとうらやましくなります。伝わるからめちゃくちゃ布教してきますよね。Xとかもうお祭りですからね。機種が出るたびにトレンドに乗ります。なんならOSのアプデだけでニュースになったりするじゃないですか。は? OSだろ? なんでそんな興奮してんの? みたいなね。いや失礼。ちょっとひがみましたけどね。
「どのタイミングでiPhoneに行きつき、その良さに気づいたのか問題」についても、わりとわかりやすいんですよ。「知人や親がiPhoneいいよって言いまくってたから、いても立ってもいられなくなって最初からiPhone」とか。「世間がめちゃくちゃ盛り上がってたからiPhone」とか。「自分が使って良さを実感する以前に、周りがガンガンほめてるからそれはもう、いいものなんだろうと最初から勘違い」みたいな感じだと思うんですよ。は? お前自身の感想はないの? みたいなね。失礼。ちょっとひがみましたけどね。
ね。
つまりはね。
あなたのご相談の内容、そして私が長年くるしんできたこの命題を、丁寧に掘り進んでいった先で要約しますと、つまりは「iPhoneが目標」ということになると思うんです。
水曜どうでしょうがiPhone並みのブランドだったらどれだけいいか、という話になってくる。
ジョブズが黒タートルでリアカー引いてタコ星人と共に登壇するところを見たい、みたいな話になってきます。
となると。
そろそろ……あの……「いや、どうでしょうはそういうのじゃないな。」みたいな気持ちになりませんか。
なりませんか?
なりませんか?
なるでしょう。
いやまあジョブズとタコ星人は見てみたかったけれどもだ。
そういう話ではなく。
ぼくらはね。水曜どうでしょうはそういうのじゃない、と薄々感づいていますよね。
あのね。
「誰もがよさを伝えやすいコンテンツからでは採れない栄養」みたいなものがあるんですよ。これが。悲しいほどに。
水曜どうでしょうというコンテンツは、「良さを他人に伝えるのが難しいーッ!」と、もぞもぞするところに、じつはそもそも楽しみのコアみたいなものがちょっとあるんですね。これはもう、20年以上に亘って、多くの藩士たちが、ていうかD陣たちも、くり返しくり返し述べてきたことではあるんですけどね。
D陣が昔よく書いていた話なんですけど。水曜どうでしょうが0時台→23時台と放送時間をステップアップ(?)させて、順調に視聴率を高めていって、一度、ゴールデンタイムに滲出……じゃなかった進出したことがあったんですよ。
滲出じゃないわ。好中球か。
で、ゴールデンタイムで放送されたら、さらに視聴率が爆上がりするかと思ったら、上がらなかったんですよ。23時台とほとんど同じ人数しか見ていなかった。
申し訳ないですが我々それを、ホームページか、もしくはえーと、クイックジャパンの水曜どうでしょう特集号か何かで読んで爆笑したんですよ。
「ゴールデン行ってもナカマが増えるわけじゃないんかい!」とね。
「伝わらねぇなー! この良さ! ガハハハ!」とね。
しかもそこでD陣が考えた話が、輪を掛けてすばらしかったですね。
「ああ、なんだ、何時にやっても同じやつらしか見てねぇのか、だったら俺たちはその同じやつらにだけ向けて番組つくるわ」
その後の、すなわちサイコロ6のあとの企画、私、全部好きです。
水曜どうでしょうクラシック的には後期に位置づけられる一連の作品群。
あそこで水曜どうでしょうはさらに数段成熟したようにすら思える。
「たくさんの人に、いい! いい! と思われるような番組づくり」だったら、つまり水曜どうでしょうがiPhoneだったら、きっと、ああいう形で「我々」がホーチミンにたどり着くことはなかったと思うんですね。
まあ、ラストランのあとDVDが出たらめちゃくちゃ視聴者増えましたけど。番組終わったら増えるんかい。DVD出たら増えるんかい。
今もそういう不思議な流れは続いています。
Netflixで配信されたら増えるんかい。
大泉さんが大河に出たら増えるんかい。
でもねえ、このオバケ番組は、ふしぎなことに、これだけ不動の地位を築いているのに、これだけ儲かってるのに、今もなお、あなたや私が考えているように、「良さが伝わらねぇーッの魅力」を失っていないんです。
藤村Dが山奥の水曜どうでしょうハウスに籠もったときのこと、ついこないだみたいですけど、もう3年ちょっと経ちましたけど、あのときのこと覚えてますか?
「コロナで出かけられないから仕事もしないで山に籠もる」って、それ、誰が見るんだと。
いやいやそれ、おもしろさの伝えようがないっちゅうねんと。
緊急事態宣言下に、あれほど、「いつも通りだな……」みたいな気持ちになったこと、まあ、ほかにはなかったですよ。
そしてあれめっちゃバズりましたね。本まで出てね。
いいですか。
もはやこれは我々の、「癖」に関することであります。くせではないです。ヘキです。
我々には、「他人に伝わらねぇーッ! この良さは、俺にしかわかんねぇーッ!」と思うものを愛する嗜癖があります。
水曜どうでしょうがiPhoneだったらこんなに愛することはできなかった。
あきらめるしかないでしょう。
あきらめて自分が楽しむしかないんですよ。
水曜どうでしょうはその点偉いです。
決してやけっぱちの胴体着陸なんかしません。
「明るくて魚が釣れねぇ? ならタレントなんか撮らなくていいからライトオフしろよ」を平気でやるのが水曜どうでしょうですよ。
為せないなら為さないんです。彼らはね。
それにわれわれはしびれてきたんですよ。これはもう、D陣や出演陣のすごさだというのはその通りなのですが、さらに言うと、我々が内包したヘキのたまものでもある。
フグは自分の毒に当たってしなない、とか言いますけど、我々はみずからの毒にあたってしびれてちょっと気持ちよくなるタイプの生き物なんですよ。やばいですね。脳内麻薬所持のかどで大麻取締法違反で検挙される日も近いと思いますよ。
返す刀でついでに切っちゃいますが、この連載にも言えることですよ。
そもそもこの連載、「どうで荘」の掲載なのにD陣が一切書いてないんですよ。でもどうで荘の人気連載とかって銘打ってるんですよ。
しびれますよね。
毎月やってくる原稿の督促文に、「D陣も楽しみにしてます」って書いてたりするんですよ。これあんたらのサイトじゃないんかい、主役が書かずに「読んでます」って、それで企画として成立してるって、どれだけ自由なんだよと、いつもツッコみながら、はい承知しましたつって、爆速で原稿書いてますよ。これもう仕事じゃなくて年貢ですよ。
笑っちゃいます。脱力します。このおかしみのニュアンス……ああ、伝わらないだろうな……妻にも子どもにも……。
この連載を楽しんでくださっている方々もまた、基本的には「コミュニティに入った人びと」です。みんなもどかしいだろうなー。
すみませんね、我々、書く方も読む方も、番組の本丸から藩士の一人ひとりにいたるまで、ヘキがこんな感じですから。あきらめましょう。ご唱和ください。まあその、打つ手はないです。
どうで荘にご入居の藩士あるいは同志のみなみなさま、いかがお過ごしですか。関西在住の私は、遅ればせながら、おそるおそる、ようやく新作を見終わりました。なにがあっても結局おもしろくなる魔法のような時間でした。われわれはその魔法を何度も見せられてきたので、またかよと思うわけですよね。私はゲラゲラ笑いながら「夢だとわかりながら見る夢みたいだな」と、妙な感慨に包まれたのでした。
ただし上記の感想は、私と同じ属性の人を相手にする時しか、まともに機能しません。まさにここ。どうで荘のような、同じモノを履修してきた同志がいると確信できる場所でだけ通用する、あまりにぶっきらぼうで、あまりに説明を省いた言葉です。もしここではない場所でどうでしょうの新作について語らなければならないなら、私はもっと言葉を選び、もっと長々とした語りを選択するでしょう。
文脈も注釈も言葉選びもすっ飛ばして、ただよかったというという気持ちを垂れ流してよい安心が保証された場所を、私たちはコミュニティと呼びます。なにかと生きづらい世の中にあって、そのくせ人の好みは孤島化する時代にあって、コミュニティは好きを楽しむ理想郷のひとつだと思います。家族とか友人といったつながりとは別に、好きを共通項に暗黙の連帯を感じられるコミュニティは、今後人生を長く生きようとする人類にとって、さらに重要になっていくのかもしれません。
一説によると、驚くほど多くのモノやサービスは、その売上の8割をわずか2割のファンが支えているそうです。業態や業種に関わらず、企業は満遍なく少しずつお客さんに依存するのではなく、熱心なお客さんの上位20%が繰り返し購入することで、モノやサービスはようやく存続できるそうです。ふだん私はSNSで多くの人にモノの購入を促す仕事をしていますが、積極的にそれを買おうとするファンや、リピーターと呼ばれるお客さんの姿を見る限り、この8割/2割の法則はあながち間違いではないという実感があります。
つまりモノを作ったり売ったりする側にとっても、コミュニティはとても重要なのです。むしろコミュニティこそが、死活問題とも言えます。コミュニティが活発に機能し、そこに集うファンが熱心に語りあうことが、実は好きの対象そのものの永続を担保している。言葉を変えれば、コミュニティが活性化すればするほど、作り手側は儲かる。儲かるは語弊があるにしても、少なくとも作り続けることができるといえます。
このサイクルは長年のどうでしょうファンなら、よくわかると思います。これは私の憶測ですが、どうでしょうD陣のおふたりは野生の勘というか天性の商魂でもって、番組の早い時期からファンとコミュニティの大切さを体得されていたのだと思います。だからこそ相談者さんが体験したような、現在のどうでしょうコミュニティの楽しさがあるのでしょう。
じゃあコミュニティをどんどん大きくすれば、さらにどうでしょうは飛躍するのではないか。コミュニティに入るファンをどんどん増やせば、儲かるのではなかろうか、という話になりそうですが、おそらくモノゴトはそう単純ではありません。むやみにコミュティの大きさを目指すと、コミュニティの熱量が失われたり、逆にコミュニティの囲い込みを追求すると、その閉鎖性が活度をじわじわ奪っていく現象もよく見聞きするところであります。なんでも比例しないところが、好きという人間の気持ちを扱う難しさなのです。
現に、どうでしょう関連のコミュニティで、あからさまに規模を大きくするようなアクションを私は見たことがありません。ここ、どうで荘の入会案内も楚々としたものですし、キャラバンといったイベントも知りたい人に向けて開催を伝達するだけで、知らない人を振り向かせるような広告的アプローチはとられません。コミュニティからいかに離脱させないかという、逆方向のあからさまさも感じたことがありません。むしろ去る者は追わずといった自然体を、運営されている人たちの中に見ることができます。たぶんコミュニティを維持する人も、コミュティに集う人も、大事なのはそんなことじゃない、ということがわかっているからだと思います。
ですから相談者さんも、だれかをコミュニティへ無理に引き込むような勧誘をする必要はありません。たしかに「布教」とか「沼」という言葉はよく目にします。好きを周囲に感染させることは、推しを抱く者の務めといった言説もたしかにあります。しかし相談者さんがすべきは、どうでしょうの敷居を下げることでも、上げることでもありません。まずあなたがやるべきは、安心して好きを謳歌することです。それこそが、コミュニティにとっても必要なことなのです。
相談者さんは書かれています。どうでしょうにいつどうやって出会い、なんで好きになったのかわからないと。たぶん、好きとの出会いはそういうものなんだろうと思います。好きは、他人にわかるように理路整然と説明できるものではありません。それを過不足なくわかってくれるのは、同じ好きに出会った人たちだけです。好きは複雑で奥ゆかしくて、かんたんに説明されることを許さないから、好きはつねに言葉足らずでしか伝えらないのでしょう。だから相談者さんが妻にすら伝わらないと絶望するのも無理はないことだと思います。
ただしひとつだけ、好きを伝える手段はあります。あなたがその「好き」によって、たのしそうにしていればいいのです。人は、たのしそうにしている人に興味を持ちます。それがなにかわからなくとも、他人はたのしそうにしているあなたに興味がわくのです。おそらく相談者さんも、きっかけはそうだったんじゃないですか。だれかがどうでしょうに夢中になる様を見て、興味を持ったのではないですか。私には、相談者さんの「記憶にないあいまいなきっかけ」は、そういう風にファンが楽しむ姿を通してどうでしょうの魅力が伝わった証に思えます。
だから相談者さんはそのまま、たのしそうにしていればいいのです。たのしそうな姿を隠す必要はありません。とりわけ身近にいる家族は、あなたが好きを謳歌する姿を見せることこそが、相手にどうでしょうのたのしさを伝える唯一着実な手段なのだと思います。ただし相談者さんの配偶者さんがまた別の好きを抱えている場合、あなたが勧誘される可能性も非常に高いわけです。ただまあ打つ手はありません。
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あらかじめ解決を放棄したお悩み相談は今回でいったん終了です。理由は諸般の事情によりけり、打つ手はありません。
当初の予想を超えて、21回の連載となりました。どうで荘にご入居のみなさま、おつきあいありがとうございました。また、解決しないぞと看板を掲げているにも関わらず、相談を寄せてくださった方々にも感謝申し上げます。
なによりこの相談室は、私とヤンデルという他者なる二者が、同じ相談に鏡のように回答する対比こそが真骨頂だったと思います。その四苦八苦は、同じく迷走してきた私がいちばん理解できます。おつかれさま。ヤンデル先生、ありがとう。
連載中はひそかに、このコンビがどうでしょうD陣のおふたりの姿に重なって見えればいいなと、図々しく思っていました。藤村さんと嬉野さん、私はおふたりの生き方が好きです。
それでは機会がありましたら、またどこかで。ありがとうございました。
山本隆博
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【連載終了のお知らせ】
「シャープさんとヤンデル先生のお悩み相談室~ただまぁ、打つ手はないです~」は、今月の連載をもちまして、終了させていただくこととなりました。
これまで多くの方にご愛読いただき、誠にありがとうございました。
お悩みをお送りくださった皆様にも御礼申し上げます。
【回答者プロフィール】
山本隆博
@SHARP_JPの運営者。どうでしょうをサラリーマン目線で見直すのが好きです。
病理医ヤンデル/市原真(45)
好きなどうでしょうはユーコンです。