シャープさんとヤンデル先生の相談室
〜ただまぁ、打つ手はないです〜
第18回
「公式」の先駆・シャープさんと、つぶやく病理医・ヤンデル先生が!
悩みを聞くだけ聞いて解決しない相談室を架空のアパート「どうで荘」で開設。
様々な「相談」に、各自の持ち場から答えていただきます。
お悩みはこちらからお寄せください
---------------------------------------------------------------
☆今回のお悩み☆
くだらない悩みですみません。夏はさっぱり、美味しい料理の時期ですね。こんにちは。
週末いま 推しているジャンルで某コラボカフェ的なものに通っています。ただここ最近、ヘルシーブームもあり腹八分目の生活から食べ物を沢山食べることが出来ません。歳のせい? 揚げ物は特に……
もっと推しに貢ぎたい!!健康も大事と思いますが、屈強ないっぱい食べれる胃袋をつくるにはどうしたらいいでしょうか…?内臓強くなれますか?出来ることがあればご教授願いたいです。宜しくお願いします。
(P.N:たくあん)
残暑どころではありません。暑熱お見舞い申し上げます。どうで荘にご入居のみなさまにおかれましては、無事ですか。元気ですか。こちらは夏バテですと言いたいところですが、春夏秋冬バテているので通常運転でした。生まれてこのかた、頑強な身体も漲る覇気も持ち合わせてこなかったから、私には「昔はこうじゃなかった」という悔恨がほとんどありません。ずっとバテてたし、ずっと少食でした。ずっと元気がないし、いまもない。それ以上でもなくそれ以下でもなく、それが普通です。
相談者さんの年齢はおいくつくらいなのでしょう。はっきり書かれていないからわからないけど、文面には「昔はたくさん食べられたのに」という風な名残があるので、いっぱんに中年とくくられる世代なのかもしれません。もしそうなら、相談者さんは食べる量にかぎらず、なにかにつけて「衰え」に直面されているのではないですか。そしてその衰え感を埋めるように、いま推し活にのめりこまれているのなら、また別の心配が立ち上がってきます。
自戒をこめて言いますが、中年は衰えをさっさと「自身の前提」にしてしまうのが生きるコツではないかと思います。「できなくなった」ではなく「できない」を普通にしてしまうのです。できないことができるようになった時の輝かしさは忘れがたいものですが、できることができなくなった時にやましさを感じる必要はありません。私たちは自我が過去の自我と連綿と続くあまり、すぐ近過去の自分と比較してしまいますが、もっと過去へ遡ればなにもできない幼子だったわけです。つまり中年の現在地と子どもの頃を比べれば、むしろなんの差もない。もちろん詭弁です。
とはいえ、食べることに関して、相談者さんはもう「できない」を普通にしているように思います。腹八分目の生活をしていたらたくさん食べることができなくなったとおっしゃるように、たくさん食べられないが「あなたの前提」なのです。それでいいと思います。無理して食べるなんて、中年のやることではありません。身の丈にあった食事。病理医のあの人も、健康な中年のあるべき姿として、そっと頷いてくれるにちがいありません。
ところで私は昔から、テレビの大食い番組が好きでした。いまも好きです。YouTubeなんかで大食いの様子が流れてくると、つい見入ってしまいます。自分が少食なせいかもしれません。自分ができないことを軽々とやってのける人に、憧れと称賛めいた気持ちがあるのだと思います。中年になるとわかりますが、自分ができないことを軽々とやってのける人は、存外にたくさんいます。つまり相談者さんも、自身の衰えを補って余りあるような、自分より遥かに食べる人を連れて行けばいいのではないでしょうか。
中年のやることは過去の栄光を取り戻すことではありません。やるべきは人生の合理化です。屈強な胃袋を取り戻すことができないのなら、屈強な胃袋を外部化すればいいのです。食べたくてしょうがない人をお供に、推しのカフェに行く。あなたが食べられない分をモリモリ食べる様子をニコニコ眺め、そしてあなたがお会計すれば、だれも不幸せにはなりません。それでいいと思います。
もしそのお供が見当たらないなら、私が行きましょう。ただし当方、少食でした。1人前もおぼつきません。ただまあ、打つ手はありません。
こんにちは。食ですね。なるほど食か。いいテーマだなあ。
思い起こせば我々は、幾年もの間、うまいものを食わせないというだけでタレントが激昂する番組を観察してきたわけです。「食」をめぐった感情のぶつかり合いというものは、じつに人間らしく、しみじみとあさましく、どことなくいさぎよく、むき出しの心と心のつばぜり合い、極上のエンタメ、人生劇場ここに極まれり。ため息まじりに感心するわけでございます。
いっぽうで、たくあんさんの場合には、「腹八分目以上に食べられなくなった」ことがお悩みであるということですね。ははあーそうですか、腹八分目ならいいじゃないのよ、健康にいいからそのままでいなさいよ、と書いて終わろうかと思っていたのですけれども、コトはそう単純ではないようです。
なぜ、たくあんさんは「いっぱい食べれる胃袋」をご所望なのか。
それはひとえに、
「推し活動においてコラボカフェでメニューを片っ端から平らげたい」
からなのですね。
栄養のためでもなければ、道楽のためでもなく、「推すために食わなければいけない」という使命感のため。利他が極まりすぎて一周回って超利己的になってて、最高ですね。
ではそんなワガママなあなたにしっかりとお答えいたします。胃を鍛えるというのは、「劇場に芸人をたくさん出演させること」にひとしいです。
???
どういうことでしょうか??
大丈夫、順を追ってご説明しましょう。
まず、胃というのは、食物を胃酸で消毒しながら、適度に撹拌(かくはん)し、おおまかに砕き、その先にある「消化酵素が雨あられと降りそそぐトンネル(=小腸)」に食べ物を送り出す働きを担っております。
胃からはアルコール以外のものはほとんど吸収されません。体の中に栄養を取り込むのは、胃の先にある小腸の役割です。ちなみに水分の吸収は大腸で行われます。
ここで、食べ物を「舞台で活躍する芸人」に例えますと……。
胃は待機室であり、「楽屋」です。消化吸収のメインステージではありません。
胃には、食べ物が1時間半から2時間くらい留まります。食べ物たちは、「楽屋」でそれくらいの時間待機して、十分に緊張がほぐれてから、小腸という舞台に出て行くわけです。
では、俗に言う「胃の強い人」というのは、どういう状態なのでしょうか?
ひとつには、胃袋の中にたくさんの食べ物を抱えて混ぜることができる人。
もうひとつは、胃袋の中からさっさと食べ物を小腸に送り込んでしまえる人。
さっきの芸人さんの話でいうと、「楽屋のキャパがでかい」とか、「楽屋での待機時間が短い」ことを、俗に「胃が強い」と呼ぶわけです。
ここでひとつ考えてほしいのですが。
芸人さんを、楽屋にたくさん収納し、短時間にいっぱいさばくことが、お笑いのクオリティと関係しますか?
私は……関係しないと思います。
それは芸人さんたちの緊張を高め、本来の能力を発揮できなくする、愚行です。
劇場は儲かるかもしれませんけれど……。いや、お客さんからすると、たくさんの芸人が次々舞台上で入れ替わっていけばいいというものでもないと思うんで、結局は売り上げも落ちると思います。
胃での食物の処理をオザナリにすると、小腸や大腸で食べ物がうまく吸収できなくなります。ゴツゴツしてろくに砕かれてもいない食べ物は、消化酵素の効きも悪くなりますし、内臓の中をうねうね先に進ませるにも苦労するので腸が必要以上にウニョンウニョン、ウニョンウニョン動くことになって、お腹がグルグルしたり、ときにお腹の真ん中がズーンと痛くなったりします。
そういえば、YouTubeなどでご活躍のフードファイターの方々が、総じてあまりお太りになられていないことを、不思議に思ったことはありませんか?
あんなに食べてるのにどうして太らないんだろう。うらやましい! と感じた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ここはむしろ、ぞっとすべきポイントです。
あれだけ食べてるのに太らないって、それ、消化や吸収があんまり効率良くないってことなんじゃないのかな、と考えた方がよいです。
一般的に「胃の強い人」と考えられている方々は、みなさん、とんでもないクオリティのウンコをします。詳しく書くとこの原稿の意味合いが変わってきますのであまり書きませんが、「これは……栄養はほぼスルーしてるね……」ということになっております。
というわけで、あなたの健康を第一に考え、食べ物にとっても幸福な結末を第二に考えたとき、「胃が強くていっぱい食べられる」ことには、大きなメリットがありません。それは芸人を潰すシステムです。劇場の価値も下げることになります。
よろしいですか! すこやかな暮らし! うつくしい人生! 食べ物を愛で、食べ物に愛でられるようなフードライフをおくるために! 早食いも! 大食いも! 百害あって一利なし! やめましょう!!!!!
……と私が申し上げたところで。
うるせえ! こちとら推しのためなら自害も厭わんのじゃ! という、たくあんさんからのお悩みに答えたことにはならないと思います。
コラボカフェの全メニューを制覇することが第一義であって、そこで多少自分の健康が害されようがかまわないという気持ちに、「胃をだいじにしてください~食べ物をリスペクトしましょう~」と正論をぶちかましたところで、それはあなたの心には入っていかないでしょう。
今日のここまでの原稿は無駄です。原稿料はいただきます(以前にここで原稿料はいりませんと書いたら本当に原稿料ナシになりました)。
そこでここからは、推しコラボメニュー全制覇のために、人体の構造をハックした私が考え得る最善手を記します。
(1) 満腹中枢をだませ!
食べ始めて20~30分くらいで満腹中枢が動き始めます。したがって、注文したメニューが手元に届き、一口でも口にしたら、食行動以外の作業は一切せずに食べ物を口の中に運ぶことだけを考えてください。それが量を食うコツです。途中でよい画角の写真を撮るとか、SNSにあげて同担を喜ばせるとか、反応のリプに2秒でいいねを付けるといった活動に1分以上使わないでください。あなたのその1分で、食べられた2口があるはずです。あなたの承認欲求と、コラボ商品への課金の総量、どちらを大事にされますか? これはもう価値観の問題ですが正義の在処は明白です。
(2) 水分の取り方に注意しろ!
胃ではアルコール以外のものは吸収されません。「水分をとって食べ物を押し流せばいっぱい胃に入るやろ」と考えている人がいますが、幽門(胃にとっての肛門みてぇな場所)はそれほど甘くはありません。水分ごと、胃の中できっちり撹拌されます。飲んでも食えません。推しコラボメニューにドリンク系が混じっているときは、早々と楽屋のキャパを圧迫することを覚悟してください。推しの色にあわせた二種類のドリンクを購入して写真を撮ったあと、飲み下したそれらは胃で1時間半混ぜられます。むしろ他のものを投入して混ぜないほうが関係性は強固になるのではないですか? なぜ、複数のドリンクといっしょにシロノワールのパチモンみたいなデザートを追加で頼んでしまうのですか? それは本当にあなたの大事な推しを愛でることになるのですか? 箱推し? うるせえ黙って読め
(3) 直参回数で勝負しろ!
楽屋のキャパは鍛えられません。となれば、コラボ期間中にお店を訪れる回数を増やして対応するしかないです。朝昼晩、すべて通いましょう。栄養の偏り? 今さらあなたがそれを気にされるのですか? や、もちろん、私は気にしますよ。医者としての責任で、「パンケーキで君の筋肉を置換するつもりかい?」と申し上げますよ。しかしあなたにとってそんなことはもう関係ないはずです。プリンとアイスで3食×7日=21回転くらいなら人体は適応してくれます。長い目で見ればそういう生活をすればするほどたぶん早く死にますが、それでいいんでしょう? 人生なんて壮大なひまつぶし、と言った人がいますが、私が考えますに、人生というのは推しによって生の苦痛を緩和する壮大な緩和ケアです。
今回の原稿、「とんでもない医者だ!」と炎上するかもしれませんが、その場合怒られるべきはこんな質問を選んで私の記事が無料公開されるタイミングで送り付けてきたどうで荘スタッフですので、ご了承ください。推し活に、医学的に打つ手はないです。
---------------------------------------------------------------------
☆現在、皆様からのお悩みを大募集中!
【回答者プロフィール】
山本隆博
@SHARP_JPの運営者。どうでしょうをサラリーマン目線で見直すのが好きです。
病理医ヤンデル/市原真(45)
好きなどうでしょうはユーコンです。