シャープさんとヤンデル先生の相談室
〜ただまぁ、打つ手はないです〜
第12回
「公式」の先駆・シャープさんと、つぶやく病理医・ヤンデル先生が!
悩みを聞くだけ聞いて解決しない相談室を架空のアパート「どうで荘」で開設。
入居者からの「相談」に、各自の持ち場から答えていただきます。
☆現在、入居者の皆様からのお悩みを大募集中!
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☆今回のお悩み☆
シャープさんヤンデル先生、こんにちは。
最近、何かを質問するとAIが即座に答えてくれる機能やサービスがよく話題になっていますね。
私はこの連載を読んでいて、お二人のお悩みに対するあたたかみやユーモアのある回答がとても好きなのですが、AIにお悩み相談ってできると思いますか?
お二人のお考えを聞いてみたいです。
(PN:さるぼぼ)
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いま見たらこの原稿のファイル名に12がナンバリングされていました。月イチのお悩み相談ですから、今月でヤンデル先生と私、われわれの回答が一年を巡ることになります。そもそも解決を放棄するという、ふざけた回答にもかかわらず、どうで荘にご入居のみなさんの一年にわたるおつきあい、ありがとうございます。
さて、一周年にふさわしいかどうかは知りませんが、ここでわれわれが行ってきたお悩み相談の回答を、いま流行りのAIが行うことは可能か、という問題が提起されました。仮に可能であれば、それはすなわち連載の危機とも言えるでしょう。私もヤンデル先生も、なにがしかの文章を書き、読んだ方から反応をいただく貴重な機会をひとつ失うわけです。今回のご相談は「AIは私やあなたの仕事を奪うのか」という、昨今ちまたで喧々諤々されている議論と本質的には同じなのかもしれません。
それにしても世間話でもニュース記事でも、私は「AIは人間の仕事を奪うのか」なるテーマを見聞きするたびに、「AIはいつから警鐘を鳴らす存在になったのか」と、いくぶん不思議な気持ちになります。たしか私の記憶では、AIは人間の労働をそうとう肩代わりしてくれるから、その浮いた分の時間も経済的対価も私たちは享受し、ついには労働から解放された人類は新たな進化を迎えるだろう、といった楽観ムードだったはずです。AIこそが救世主だ、と。
それがいつのまにか反転してしまったように見えます。AIはあなたや私を失業させるかもしれない。AIはあなたや私を貧乏にするかもしれない。AIは救世主から悪魔になったとは言い過ぎだとしても、とにかくAIは恐ろしいものという空気をひしひしと感じます。
そもそもAIが私たちを路頭に迷わすのなら、そんな存在はお引き取り願いたいし、AIが私たちを働かずして生きていけるようにしてくれるなら、一刻もはやくしてほしい。私はそう思う怠惰な人間です。できることなら私はさっさと労働から解放され、人々のお悩み相談なんかを日がな一日じっくり考え、その回答をのんびり書くなどして暮らしていきたい。だからAI様におかれましては、お悩み相談の代筆なんてちんけなことを言わず、もっと大きな、人類の苦しみを肩代わりしてほしいと願うのです。
そういう私は、AIがお悩み相談の回答を担うなど、実はわけないのではないかと思っています。聞くところによると、質問すると即座にテキストで答えてくれる系のAIは、ひたすら次の言葉にくる確からしい言葉を出力するそうです。人類がインターネット上に蓄積してきた膨大で膨大な言葉を取り込んだ結果、AIはこの言葉・この文脈から、次に続く確率が最も高い言葉を選べるようになった。そしてその高い確率で続く言葉をひたすらつなげていくと、どうやらわれわれが聞きたかった文章が生成される。いささか乱暴ですが、私はそういう風にいまのAIを把握しています(違っていたら教えてほしい)
と、いうことはですよ。私となんら変わらないじゃないか、と思うわけです。ここでいま書いている文章も、ふだんの私のツイートも、それから私が日常で交わすあらゆるテキストも、かつて私がどこかで見聞きした言葉によって成立しています。そこに私が生み出した言葉などひとつもありません。いくら私がうまいこと言えたぞとほくそ笑むツイートも、これは世紀の名回答だと自己満足する文章を書けたとしても、そこに私のオリジナルはありません。私のテキストはすべて、過去から現在に生きる、どこかのだれかの言葉で出来ている。私はそう考えています。
一方、文章を生成させる方法においても、私とAIの間にさほどの違いはありません。AIがただひたすら「次に続く確率が最も高い言葉のみ」を探すように、私はただひたすら「次に続く言葉のうち自分が最もしっくりくる言葉のみ」を選び、言葉に言葉を接いでいく方法をとります。なぜならそれが、自分が言いたかったことに自分が事後的に気づけるための近道だからです。私は言いたいことを言うために文章を書きますが、書く前から言いたいことを把握できているわけではありません。言いたいことは書き終えてはじめて、そうか私はこういうことが言いたかったのか、というかたちでしか知ることができないのです。
言葉は他者の言葉からしか獲得できないし、言いたいことは書いたあと遡るようにわかる。うまく言えませんが、たぶん言語とはそういうものなのだと思います。そう考えるとAIが代筆どころか、これまでのお悩みはすべてAIが回答していたとも考えられるわけです。私たちはAIのようにして言語を使えるようになる。つまりはあなたも私も、すでにAIなのです。ただまあ、打つ手はありません。
こんにちは。私たちもAIがどの程度お悩み相談に役立つことができるのかについて、興味深い話題だと思います。
AIは、多数のデータを分析し、関連性の高い情報を瞬時に取得することができるため、ある程度の情報や知識を持っている場合には、特定の問題に対する答えを提供することができます。しかし、AIは感情や人間の経験に基づく洞察力に欠けているため、一部の問題には適切な答えを提供することができません。
また、お悩み相談には、相談者とのコミュニケーションや共感、人間らしさが必要不可欠な要素です。AIが完全に人間の代わりをすることはできません。
つまり、AIがお悩み相談に対して役立つ可能性はある一方で、人間同士のコミュニケーションや相互作用を完全に代替することはできないということです。
したがって、私たちは人間同士のコミュニケーションや相互作用が欠かせないお悩み相談に対して、AIが完全に代替することはできないと考えます。ただし、AIがある程度の情報を提供し、人間同士のコミュニケーションをサポートすることは可能だと思います。
ですってよ。ChatGPTがこのように言ってます。さるぼぼさんからいただいたお悩みを、そのまま言語生成AIであるChatGPTにぶちこんで、回答をコピペしたものが上記(太字部分)です。これで原稿料もらうわけにはいかないので、今回の原稿料は辞退します。あなたはこれが「AI作」だと気づきましたか? わりとわかりやすかったかな?
こうして「AIに回答させました」と答えをばらしてしまうと、皆さんも「あー、なるほどね」となってしまいがちです。「あーヤンデルもとうとうそういうことするんだ」みたいなね。でも、ちょっと待って、あらためて今の回答を読んでみましょう。わりといい感じでお悩み相談できてるように見えますが、いや、待て待て。
これって本当に、お悩み相談になってるでしょうか――
――なーんて。ありがちな展開に持っていきたくなりましたけど。
うん。「お悩み相談の体裁」はきちんと保てていると思いますよ、私は。
まあ完璧とは言いません。言いませんさ、それはね。
たぶんここを見ている方のうち、半分くらいの方は、上記の文章を読んで途中で「目が滑った」んじゃないかと思います。私の尊敬する芸人のサンキュータツオさんとこないだお話ししたのですが、彼は言語生成AIの作る文章について、「平板で盛り上がりがない」とおっしゃっていました。たしかにそういう印象がありますよね。
けど、相談に対する回答、応答としては、よくできているんじゃないかなとも思いました。世の中の1億人くらいに、「AIにお悩み相談させたらどうなると思う?」と尋ねたときに返ってくるお答えの平均をとったかのような……もしくは、最大公約数的なお答えと言ってもいいかと思いますが、とにかく及第点の回答を非常に短い時間で作ることができている。すばらしいことです。ネットで検索しまくって間をとる、みたいなことを、秒でできるんですから。
一方で、このお悩み相談に気になる点がひとつあります。さるぼぼさんが書かれた、「お悩みに対するあたたかみやユーモアのある回答がとても好きなのですが」の部分がぜんぜん反映されてない。
あたたかみやユーモアのある回答が好きだ、と言われたら、普通の人間であれば無意識に、「そうか、だったらあたたかさのある、ユーモアもまじえた回答をしてみたいものだな」と思って、回答を微調整すると思うんです。でも、AIはそこの部分は一切無視してますね。
とはいえ、AIに「お前は人間と比べてだめだなあ」というのは大人げない(人間げない?)行為だと思います。
なにより、私の質問の仕方も悪かったかもしれない。さるぼぼさんは、シャープや私に向けてお悩みを書いてくださったわけですが、この文章にはシャープや私が受け取ることを前提としたニュアンスの調整が加わっています(さるぼぼさんを含め、多くの人はそのような高度な「さじ加減」を無意識のうちに会話や文章に加えていると思います)。それを本来「かやの外」であったはずのChatGPTにあれこれ答えさせるというのは、そもそもChatGPTに不利な座組みかもしれません。
よし、仕切り直しだ。いったんChatGPTの画面を閉じて、あらためて質問をやり直します。今回の質問者はさるぼぼさんではなく「私」にします。ChatGPTには、あくまで私というクライアントに向かって答えて欲しいと思います。さるぼぼさんの文章を活かしつつ、以下のように前後に説明を付け加えました。
[病理医ヤンデル]
私は「ヤンデル先生」と呼ばれるものです。インターネット経由で、以下のような質問を受け取りました。 シャープさんヤンデル先生、こんにちは。最近、何かを質問するとAIが即座に答えてくれる機能やサービスがよく話題になっていますね。私はこの連載を読んでいて、お二人のお悩みに対するあたたかみやユーモアのある回答がとても好きなのですが、AIにお悩み相談ってできると思いますか?お二人のお考えを聞いてみたいです。 これに、あたたかみやユーモアのある回答を返したいのですが、文案を考えていただけますか?
するとChatGPTはこのように返事してくれました。
[ChatGPT]
もちろん、喜んで回答いたします!
AIがあらゆる情報を瞬時に処理できることは確かですが、それでも人間特有の感性や経験、人間関係の複雑さには対応できないことがあります。お悩み相談についても、AIが完全に代替できるとは言い切れません。
しかし、技術の進歩により、AIがより人間に近い回答を提供できるようになってきています。例えば、AIによる感情解析技術を活用することで、お悩み相談においてもある程度の共感や理解を示すことができるようになってきています。
ただし、私たち人間の存在感や人間同士のコミュニケーションの大切さを忘れずに、AIを活用することでより良い解決策を見つけ出すことができると思います。
というわけで、AIを活用したお悩み相談には、人間とAIの力を合わせてより良い結果を生み出すことができるかもしれませんね。
なあんだ、挨拶が増えて、口調がちょっと変わっただけやんけ、と思いますが、あたたかみは増えたかもしれません。こういうところ、言語生成AIってすごいですね。空気を読んで文体を変えている。ただし、ユーモアについてはこれでも少々足りないようです。
さて、ChatGPTには会話を続ける機能があります。一度出た答えの気にくわなかったところを修正してもらうことができますので、今のチャットを閉じずに、続けてこのように入力してみます。
[病理医ヤンデル]
すばらしい回答です! とても参考になります。さすがAIですね! ところで……あたたかみについては完璧ですが、ユーモアが少し足りないような気もします。ユーモアをもう少し効かせた回答バージョンも考えていただけませんか?
するとすかさずChatGPTはこのように答えてくれました。ここで私は「ほう……」と感心してしまいました。
[ChatGPT]
ありがとうございます!ユーモアをもう少し加えたバージョンを考えてみました。
AIによるお悩み相談が一般的になると、人間同士の会話もこんな感じになってしまうかもしれません。「おお、君、その悩み、人工知能に聞いてみたらどうだい?」とか、「俺はもうAIに相談するしかないんだ。ヒトにはもう頼めない」とか。
でも冗談はさておき、確かにAIが進化すればするほど、人間とAIの役割分担が進んでいくことでしょう。AIが得意な分野ではAIに頼り、人間が得意な分野では人間が頑張る、そんな未来がやってくるのかもしれませんね。
とはいえ、AIもいつかはユーモアや感性を持った存在になるかもしれません。もしかしたら、あなたがAIに相談したお悩みが、AIの学習によってユーモアを理解するきっかけになるかもしれません。誰かが作ったプログラムに、新しい発見や価値を与えることができるのは、人間だけではないかもしれませんね。
どうですか? 最初の回答と見比べてみてください。あたたかみ、やさしさ、茶目っ気、ユーモア、まるで別人のようです。「でも冗談はさておき、」みたいな話題の転換もスムースですし、そもそも日本語の違和感がないってのもすばらしいです。
実験はここまでにしましょう。
以上の結果を踏まえ、「AIにお悩み相談ってできると思いますか?」というさるぼぼさんのご質問に、私は以下のようにお答えします。
「AIを人だと思って誠実に質問することが大事。AIが何か勘違いしてるなと思ったらそれとなく指摘し、もうちょっとくだけてしゃべってほしいとかわかりやすくしゃべってほしいと思ったらそれも素直に教える。一度、二度のずれくらいで人間と比べて「お前はだめだなあ」とか言わない。AIと一緒に会話を組み立てていくんです。そうすれば、十分にお悩み相談の『型』を再現することができます。ちなみに、AIが言うには、お悩みを投げかけることで私たちの役に立つだけでなく、AIも成長するかもしれないんですって! なんか、夢がありますよねえ」。
はい、大団円。
……でも、この回答、じつは、私が考える100点満点でいうところの、75点くらいです。
私の勝手な想像ですが、さるぼぼさんは、「Aにできると思いますか?」に、YesかNoかで答えてほしいわけではないんですよ。
私の独断的な妄想ですけれど、さるぼぼさんは、お悩みを読んだ私やシャープが「AIにできるかなあ? できないかなあ? うーんどうだろう、私が考えるに……いや待てよ……そういえば昔あんなことがあったっけ……最近こんなことも言われてるけどなあ……」などと、悶絶したり苦悶したり、試行錯誤したり紆余曲折するところを見たいんですよ。我々が難問に、理不尽に、些細なずれに、モヤりに、愚痴ったり悪態をついたり、でもどこかちょっと笑ったりため息をついたり、ジタバタしながらお遍路巡りを……じゃなかった毎月回答にお答えしているところを見て、アルカイックに微笑みたいんじゃないかなって思うんですよ。
「お悩み相談」に対する回答って正しさとか無難さが第一義ではないんですよ。適切さがないと困りますけど、そこだけではないんですよ。
今日の回答にしても、私が、ChatGPTにこなれた質問文を投げかけることで、こちらが納得し感心するような文章にたどり着くまでのプロセスを作っていく過程がちょっとおもしろいかなと思うわけで、最後のところを表面的に見ると、「おっ、AI、思ったよりできるな」っていう結論だけがポンと置いてあるようにも見えます。でも、じつをいうと、さるぼぼさんは、そういう結論を読みたくてお手紙を送ってくださったわけではたぶんなくて、さらに言えばプロセスさえもさるぼぼさんの本来望んでいたものに全て答えたわけではないかもしれなくて……。もっと、私の心の奥底にある獣の部分というか幼若な部分というか、原始的でドロドロとした情動や情緒の部分が、「とある叫び」を発しないだろうか? 直接叫ばないにしても文面からにじみ出てこないか? と、期待していたんじゃないかと思うんですよ。
その「とある叫び」というのは、つまり、こういうことですよ。
「世の中のどいつもこいつも、AI AIってうるせぇーッ! 南の島のサルか! なんだバカ野郎!俺の方がすげぇーッ!! 未来永劫、人間の勝ちだァーッ!! ウウッ……クソッ……」
おわかりでしょう。打つ手はないです。
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☆現在、入居者の皆様からのお悩みを大募集中!
【回答者プロフィール】
山本隆博
@SHARP_JPの運営者。どうでしょうをサラリーマン目線で見直すのが好きです。
病理医ヤンデル/市原真(44)
好きなどうでしょうはユーコンです。