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昨日はよく晴れていましてね。私は飛行機の窓際の席から窓の外を眺めていました。すると不意に雲の塊を抜け清流の河床の白砂が手にとるように見えたときのように、見る見る絹のような半透明の雲が切れていって下界がすぐそこに見えてきた。まったく、この世の風景というものは、空の上の高いところから見下ろすと、どうしてあぁも何もかもが美しく見えてしまうものなのか。それはもう見るたびにいつも思う不思議なのですが。おそらくきっと、見なくていいものを見ずに済んでいることと、いやつまり、普段、地上で我々が普通に近い距離から見ているこの世の細部なんか、もう空の上からは見えないし判別もつかないということです。そして、それとね、地上にいるときには人間たち銘々が主張したり、騒いだり、威張ったり、酷いことをしたりと目に余ることを見せられるものだと辟易していたけど、こんなに高いところまで舞い上がって空の上から見下ろしてみると、この地上全体がいっぺんに見下ろせてしまって、なるほど全体像としてしか眺められない。つまり全体を俯瞰してみれば、この世はものすごく調和が取れているんだと素直に受け取れて、しかしなぜ調和がとれて見えるのかは分からないまま、それでもそんなことより先に、眼前に広がる美しさに圧倒されて、いつまでも見てしまうのだろうと、私はぼんやり考えていました。


「たしかにそうです。思っているほど、この世界は悪くない」

ひょっとして、その思いをすっかり忘れたら、いつかバチが当たるかもしれないなぁ。そんなことを思っていたら、飛行機は早くも千葉県上空に差し掛かった様子で、大きく右旋回を始めました。

その視覚的変化は、まるで、「さぁ、ここからが見せ場だよ」と、そんなメッセージでも込めたような雄々しくも優雅な右旋回がゆっくりゆっくり始まったのです。

たしかに本船は、そろそろ羽田への着陸進路に入る時刻です。ならば、いまはおそらく房総半島の遥か上空。しかし窓から見る房総半島は、いまや半島とは見えず視界いっぱいに広がる広大無限の大地のようで、その先に徐々に左から穏やかな海が見えてきた。おそらくあれは東京湾でしょう。なんともダイナミックな風景です。

この距離で見ていると日本の大地も実に迫力があります。気づけば私も興奮していたのか、知らぬ間にずいぶん身を乗り出して窓にオデコをくっつけんばかり。

と、そのとき。私は視線の先に意外なものを見て、「あっ」と息を呑み、目を疑いました。

東京湾のその奥に黒々とした、ただ一点だけ地上から突き出ている巨大な山体が見えていたのです。

「アレは、富士山か」

山肌には未だ雪もなく、ただ黒々とした山体が荒々しく聳えていて、一瞬私はゾクりとしました。

房総半島の遥か上空から東京湾を挟み、遙か山梨方向にある富士山が、こんなにも大きく間近に見えるものなのか。この風景は葛飾北斎も見ることのできなかった光景です。広重もまた夢想だに出来なかった富士山の構図。眼福眼福。

こんなものが、私なんぞに当たりまえに見れてしまうこの現代、細かいことで文句を言っていてはバチが当たる。宇宙なんかに行かなくたってけっこう。私はこれで充分ですわ。いやぁ現代の浮世絵作家に描いて欲しい実にダイナミックな構図でした。

東京には月のうち幾度もくるんですが、昨日はいつもの新千歳空港からの便ではなく、函館空港からの便だったので、羽田空港への着陸進路が違っていたんでしょうか。このビューポイントは、こんどから注意して眺めていないと、これを見逃すのはあまりにももったいない。そうそう。昨日は私、右側の席に座っておりましたよ。

ということで、それでは諸氏。本日も各自の持ち場で奮闘願います。

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