さて、この前のYouTubeライブでもチラリとお話ししましたが、先日、うちの藤村さんと埼玉のアイスアリーナに行ってきまして、最新のスタッドレスタイヤの威力というものを実地に氷上で体験してまいりました。
いいですよねぇこういう仕事って。だって北海道民としては滑る冬の道での車の事故は甚だ怖いですから、常々スタッドレスタイヤの信頼性は気になってしょうがないわけです。
そこへきて、その最新技術の実力のほどを、この身をもって知れるというわけですから、これは実に興味深い仕事です。
でも、このような北海道民のスタッドレスタイヤに対する関心の強さは、道外の皆さん、いえ、寒冷地以外にお住まいの皆さんにはイマイチ分かってもらえないことなのかしらと思うと、なんだか不思議でならないのですが、でも、それほど同じ日本にいても違う冬を生きてるってことなんでしょうね。ことほどさように寒冷地の冬は命懸けです。
とはいえ、冬にはまだしばらく間があります昨今のことですから、凍った道なんかどこを探してもありませんから、今回、スケートリンクに車を入れて走らせることになったわけでございます。
良いですよねぇ、スケートリンクで車を走らせる、なんて。なんとも非日常。それだけでもう派手にツルリと滑りそうに思えますし、いやいや、さすがに最新の技術力を見せつけられて驚くほどバキッと止まるのかもしれませんとも思える。いや、きっと止まるんでしょう。でも、どっちに転んだって体験する我々は大いに驚くだろうと思えば、気分は盛り上がります。
本当にねぇ、肩書きは相変わらずテレビディレクターですが、この頃は番組を作る仕事ではなく、何やら体験して驚くという、実に私の体質に合った仕事が増えてきて人生すこぶる有意義です。
で、今回、そんな我々に声を掛けてくれたのは、実際にスタッドレスタイヤを作っているタイヤメーカーさんなんで、平たく言うと我々は「タイヤの宣伝のため」に出向いたわけなんですね。
「なんだ宣伝かぁ。宣伝のときって多少は誇大に驚いてみせるんですかぁ?」
とか、皆さんの中には宣伝と聞いて反射的にそんなことを思われた方もおられるかもしれない。
ですが驚きというのは、あれは本心から「スゲェ!」と思うから思わずビックリして声が出てしまうわけで、それは、いわば魂の叫びですから、たんに「驚いたなぁ!」と大きな声を出してるってこととは、事情が違うわけです。
それが証拠に、心にもない驚きはすぐにバレてしまう。バレるような驚きでは見る人の魂に訴求しないから宣伝効果は期待できないわけで、我々としても仕事した意味がなくなるわけです。
そのことは「水曜どうでしょう」をご覧の皆さんならもう先刻ご承知のはず。それに、我々が本番で本心から驚けないようなら、それは我々自身が本番で楽しくなかったということにもなりますから、何事も楽しみたい我々としては、本番で正直に驚けるように何の予備知識も入れず詳しいことは本番までなんも知らん方が良いに決まってると信じて疑わないのです。だから、我々は打ち合わせをしたがらない。
しかし、この、打ち合わせをしたがらないというスタンスが、なかなか世間には伝わりづらいようで、先方に提案するたびに、先方の担当者さんは少し微笑まれて、
「ははは(^^)そうですか。さて、冗談はさておいて」。いや、けして冗談を言ったわけではないんですが、軽く笑顔であしらわれます。
きっと、本番を前に「打ち合わせはしません!」なんて、子どもみたいに抵抗する人は、世間には居ないってことなんでしょうね。
なので先方は、「( 何言ってるんだろうこの人たち)まぁ、とりあえず軽くご説明だけでも」と、ニッコリ切り出されるので、まぁそう言われたらこちらとしても大人ですから、「ならまぁ、とりあえず、軽く聞きますか」と、それ以上はごねずに話を聞いてしまう。
で、聞いていますとね、やっぱりスタッドレスタイヤに関するさまざまな重要情報がその打ち合わせの席でぞくぞく披露されますから、なにぶん初耳なことばかりな我々としては、「え? そうなの? マジで! 凄いねぇそれ!」と、ついついその場で前のめりに感嘆の声を上げてしまう。
で、そのたびに、「いかん。本番前に、既に驚きが漏れ始めている。なんて勿体ない」と、我々は、内心、大いに焦りはじめる。
そうしたときに、タイヤメーカーの開発の人が、「(これからスケートリンクの中で車を運転してもらわうわけですが、と前置きもされずに) 藤村さんはスケートリンクを車で走ったこと、あります?」とか、突然、真面目な顔で上手いボケとも思える発言をかまされるから、藤村さんも、うっかり、「はぁ?!スケートリンクで走ったことなんてあるわけないよ!なに言ってんだよ」と、相手をお客とも思わないような、実に気持ちのいいツッコミを入れてしまい、思わず打ち合わせの席で笑い声が上がって場が大いに沸いてしまう。
「あぁ!先生。あなた、そんな面白いツッコミは、ぜひ本番で言って欲しかった。いやぁ、今のはもったいない」と、私もいよいよ焦る。
「そうだよねぇ。いや、これねぇみなさん。やっぱり打ち合わせはやめましょう!じゃないと我々の新鮮な感動が、このまま、ここで無駄にどんどん出ちゃう」
でも、そんなこと言ったって、先方だってこれから本番でスケートリンクで車の運転をさせなきゃいかんから、事前に車に乗せて走行練習だってさせたいわけで、そこは引けない様子もあり、
「いや、でもスケートリンクで車を運転されるのは初めてなんですから、このあと事前に運転の練習をしていただく時間も充分に設けてありますので……その上で本番に」
「事前に練習?!!いやいや、事前に練習しちゃダメダメ。生まれて初めてスケートリンクで運転するなんて緊張感のあるシーンは、ぜったい未体験のままで撮っておかないと!」
「そうです、そうです。本番より練習のリアクションが面白かったなんて、そんな勿体ないこと絶対なしです」
「そう、そう。いや、練習が必要なら、練習してるところからカメラ回しましょうよ。練習の時間を本番でやっちゃえばいい。大丈夫です。そうすればなんの問題もない。とにかく、万事、撮りながら進めてゆきましょう。その方が我々も緊張するし、視聴者にも分かりやすい流れになります。正直なリアクションも撮れる。なので、事前に練習とか無しです」
ということで、我々はあっという間に打ち合わせをやめてしまい、あとは全部、ぶっつけ本番で、ということにしてしまったわけです。
だって、「水曜どうでしょう」のときだって、カメラのスイッチを切ったら、再度スイッチを入れてカメラが立ち上がるまでに5秒掛かるんですが。5秒ってね、短いようですが、面白いリアクションはみんな、この5秒の中で始まって、この5秒の中で終わってしまうんです。「水曜どうでしょう」で突発的に起きた事件の大事な部分は、ある意味、この5秒の中に全部入っていることが多い。正直に魂から出たリアクションって、そんな儚い時間の中で、おそろしく雄弁に躍動しながら消え去ってゆくんです。だからこそ、カメラのスイッチは切れない。魂のリアクションはいつ漏れ出ちゃうかわからない、それくらい油断禁物なものなのです。
と、ここまで信念を持って頑強に抵抗すると、さすがに先方も納得してくれますし、なにより先方としても、つい今しがた自分たちも打ち合わせの席で爆笑した経緯もあるわけですし、いや、それより何より、仕事先の人々とはいえ、今回の仕事相手は「水曜どうでしょう」好きの皆さんなので、「たしかに面白い部分がここでみんな出てしまうのは損かもしれない」と、うちの番組を思い出すのか「打ち合わせ無しで」という提案は、快く受け入れて貰えたわけです。
でもねぇ。この、打ち合わせ「やる、やらない」のせめぎ合いって、不思議ですよね。
つまり、世間の人は「上手くやる」ためにと思って本番の前に、打ち合わせや、練習をやりたがるんだけど、我々は「うまくやる」ために、何事もぶっつけで本番をやりたがるんですよね。
それって要するに、お互い「上手くやろう」とするときに、「何が一番うまいのか」という、見ているところが違ってるってことですよね。
我々は常より、宣伝とは、人と人とのコミュニュケーショを阻害している「心の垣根」を突破した果てにある、正直な驚きの共有であって、それが唯一、人々を共感に結びつけるのだと、信じているわけです。
その正直な驚きが、あらゆる人間の人間関係の垣根を突破して人の心のヒダに弩ストレートに訴求してくる。だからその場で他人の共感を得るには、魂の叫びを正直に発出させて、見る人の心に訴えかけるしかないと、そう我々は信じるわけです。
ならば本日の仕事を上手くやるためには、「我々が本心からビックリする」よう、本番までの状況を保持していかなければならない、となるわけです。なので、我々はこの一点にピークを置いて、「打ち合わせはやめましょう」と言うわけです。
我々「水曜どうでしょう」は、創業よりこのかた25年、各自、オノレに正直一途でやって参りました。
正直がコミュニュケーションの基本です。
そして、タイヤを作った側の心理だって、「良いねえ!」という自信作が出来たから、その実力を広く世間の人々に「共感」してもらいたいから「宣伝」したいと思ったわけです。
我々は驚き、素晴らしさを評価することにおいては"人後に落ちない"自信があります。だからこそ、2度は驚けないと警戒するのです。
つまり、我々は自分の限界を知っているということです。
新鮮な驚きというのは2度はできない。その人間としての限界を知っているから、事前にいろいろ説明され、知らされてしまうことを恐れるのです。
結局、驚きというのは、自分が、体験の中で得た発見なのかもしれません。そこで何かを発見したから驚く。だから言葉になる。発見には、発見の悦びがあって、だからその興奮が見る者にも伝わってしまうのだと思うのです。
かつて深夜バスに毎晩乗るうちに、我々は深夜に走るバスに乗って夜を明かすという不思議な体験を繰り返し、おそらく、そこに何かを発見したんでしょうね。でも、その何かを最初に言葉に出来たのは、大泉洋だったのだと思います。
「もうね。寝れないんだよ。オレたちバスで寝れないんだよ……違うんだよ、本番はねぇ、寝てるときなんだよ。寝れないんだもん」
そう、大泉洋がカメラを持つ私の左手を掴んで揺すりながら発した、あの壇ノ浦SAでの興奮と驚きの伝達力は、彼が、わけもわからず乗せられ続けた深夜バスでの無為の時間の中で、「深夜バスに乗りすぎると、眠いのに寝れないんだなんて、なんてバカバカしいんだろう」という、あまりにも予想外な発見の悦びだったのだろうと、私は思うのです。
驚きとは、きっと発見した悦びを言葉にして、その言葉以上のものにして全身で発出することを言うのです。
嘘のない驚きとは、実に、そうしたものなのだと、私は思うわけです。
そして、あのとき、その嘘のない驚きと悦びの中で大泉洋が言葉にしてくれた、「寝れないんだよ!オレたち」という言葉に、ぼくらは激しく心を奪われたと思うのです。
その共感は、広くテレビを見ていた視聴者の胸さえも震えさせてしまったのです。そして、「あぁ、オレだって、バカバカしい深夜バスに乗ってみたい!」と、図らずも思わせてしまった。
そのとき深夜バスの価値は、「移動するもの」から「体験するもの」へと変えられてしまっていたのです。
正直な魂の叫びとは、このように人の心のひだに激しく訴求して人を狂わせるということなんでしょうね。
話が長くなりましたけど、こうして今回の企画は本番を迎えたわけです。ですが結論から言いますと、最新のスタッドレスタイヤの威力のほどは、やはり驚くべきものでした。
近頃のスタッドレスタイヤは本気で止まります。ツルツル路面なのにブレーキが効くのです。なぜだ!と思うほどに。そして氷の上でもドライバーに安心感を与えてくれる技術の進歩に我々はなんだか驚いた。
ということで、これらの驚きのイチイチは、今後YouTubeで是非ご確認いただき、共感していただこうと思います😊どうぞよろしく。
では、諸氏。
本日も各自の持ち場でよろしく奮闘願います。解散。
(2021年9月22日 嬉野)