藤村でございます。
今期のドラマで面白かったのは、TBSの日曜劇場「TOKYO MER」でしたねぇ。鈴木亮平さん演じる喜多見医師が素晴らしかった。
もうね、毎週とんでもない事件事故が起きるわけですよ。立て篭もり事件だの爆発事故だの崩落だの、しまいには爆破テロまで発生して東京は常に緊急事態ですわ。
そんな緊迫した現場に救命医療の専門チームMERが手術室を装備した特殊車両で駆けつけるわけですよ。
そん時の喜多見医師の振る舞いが素晴らしい。
血まみれで倒れてる人に向かって、若干の笑顔を浮かべてですね、
「どうも医師の喜多見ですぅー」
まずは自己紹介から入るわけですね。
「お名前教えていただけますかぁー、ちょっと触りますよぉー、どこか痛むトコありますかぁー、大丈夫ですよー、すぐに治りますからねぇー」
実に落ち着いた口調でずっと語りかけるんですね。
とはいえ、患者さんの意識は徐々に遠のいて心肺停止になる。もう危篤状態。それでも喜多見医師は口調を変えないんですね。
「○○さぁーん、戻ってきてくださぁーい、奥さんとお子さんが待ってますよぉー、わたしの声聞こえてますかぁー、がんばりましょうねぇー」
手はガンガン動かして心臓マッサージしながらも口調はまったく変えない。
「戻ってきてくださいよぉー」
ガンガンにマッサージして、そしたら蘇生するんですね。
「よくがんばりましたねぇー、もう大丈夫ですよぉー」
そりゃね、現実はそんなに上手いこといかないのは分かってますけど、でもねぇ、もし私が患者だとしたらですよ、遠のく意識の中で、
「おい!早くしろ!何やってんだ!バカヤロー!」
みたいなね、医者の焦りまくった怒号が飛び交うのを聞いたらですよ、
「あぁ、もういいですよ」
と、諦めちゃうような気がするんですよね。そんな緊迫しまくった場所には戻りたくないと、思っちゃうかもしれない。
でも喜多見さんがね、
「藤村さぁーん、大丈夫ですよー、早く戻ってきてくださいねぇー、そろそろ新作もやるんでしょうー、みんな待ってますよぉー」
そんなことを笑顔で言われたら、
「あーそうでしたぁー、わかりましたぁー」
と、やっぱり生還するような気がするんですよ。いや、たとえ生還できなかったとしても、安らかに逝けるような気もするんですよね。
あの口調は、どなたかモデルとなったお医者さんがいるのか知りませんけど、でもきっといますよね、そういうお医者さん。
プロですよね。
「トンネルの崩落事故が発生。MERの出動を要請します」
「MER了解しましたぁー」
「命を守る」という使命に突き動かされて事故現場に急行する喜多見さん。凄惨な現場は二次災害の危険もあって、安全が確認できるまでは待機を命じられる。でも喜多見さんは迷わず突っ込んでいくんですね。当然、止められますよね。
「勝手なことをするな!おまえまで巻き込まれたらさらに被害が拡大するだろ!」
正論ですよね。ヒーローを気取ってんじゃないよと。おまえが巻き込まれたらまたそれを助けに行く人員が必要になるだろうと。周りが迷惑するだろうと。でも喜多見医師は行くんですね。
「ここで待ってたら、救える命も救えませんから」
つまり「命を守る」ために「命をかける」わけですよね。おかしな話ですよ。「見ず知らずの他人の命の方が自分の命よりも大切」ってことでしょう?なんかよくわかんなくなってきますよね。ただカッコつけたいだけなんじゃないかとしか思えない。
でも、そうじゃないんですね。
これが「使命」というやつですね。生きている間に「命を使ってやること」なんですね。命を犠牲にしてるんじゃなくて、使ってるんです。
「自分の命にかえてみんなを守る!」みたいな、そんなヒーロー気取りの精神論じゃなくて、「自分は医者だから命を助けるために生きているんです」というシンプルな考えですね。
とはいえ、自分の使命感だけで動かれたらたまらない。現場では警察や消防と衝突しますけど、やがてその「使命」というシンプルな考えに突き動かされて、それぞれが自分たちの使命の元に動き出すわけですね。最初は反発していた警察も消防も厚労省も命を吹き返したように動き出す。
このドラマで言いたかったのは、命は大事というのは当然のことだけれど、じゃあなんのために生きているのか?ということの方が大事でしょう、ってことだと思うんですよね。緊急事態だからこそ、なおさら響いたドラマでしたね。